2013年にオンエアされたアニメ「進撃の巨人」から4年。
満を持してこの4月、アニメ「『進撃の巨人』Season2」の放送がスタートした。
荒木哲郎総監督のもと、第1期のアニメスタッフが集結。
エンディング主題歌は、かねてより諫山創がファンだと公言している神聖かまってちゃんが担当することも注目を集めた。
コミックナタリーでは「『進撃の巨人』Season2」の放送を記念し、「バック」の愛称でファンから親しまれている原作マンガの担当編集・川窪慎太郎氏にインタビューを実施。
原作サイドから見たアニメ「進撃の巨人」の魅力、また諫山のアニメに対する思いをたっぷり語ってもらった。
また「進撃の巨人」の最終回時期にまつわる最新情報も明かされている。
取材・文 / 宮津友徳 撮影 / 三木美波
「Season2」で描かれるのは「進撃の巨人」の最も濃い部分
──いよいよ「『進撃の巨人』Season2」の放送がスタートしました。
第1期の放送から4年と期間が空きましたが、1期が終了した時点で「Season2」の打ち合わせは始まっていたんですか?
それが、すぐには始められなかったんですよ。
諫山さん含め関係者の間には「早くやりたい」という気持ちはありましたし、原作のストックもあったのでもう少し早くできたかなとは思うんですけど、いろいろありまして「2期をやれるとしたら2016年、2017年頃だろう」と決まって。
2年くらい前から脚本の制作が始まったのかな。
担当編集者としては正直、「早く続きを観たい!」という気持ちでした(笑)。
──川窪さんは担当編集という立場から、アニメにどういった形で関わっているんでしょう。
諫山さんが考えていることをアニメスタッフに伝えるときに、間に立って調整するという役割がメインですね。
諫山さんの頭の中には「このパートはこういう意図で描いていた」という考えがあるんです。
そういう部分についてアニメスタッフと話し合いながら、「それをやると原作にこういう影響があるんじゃないかな」などと意見を出したりしています。
──諫山先生は1期の制作に深く関わっていましたが、「Season2」でも綿密に携わっているんでしょうか。
そうですね。
「Season2」は1クール全12話ですが、原作の中でも“最も濃い”と言っていい部分をやることになるんです。
例えばある巨人の正体が明らかになるシーンについては、諫山さん自身も原作を描くときにすごくこだわっていたので、アニメスタッフにも「あそこはこういう意図で描いた」「アニメにするときはこんな表現でやってほしい」と細かく伝えていて。
あと原作はすでに22巻まで出ているので、「振り返ってみると、もっと前に入れたほうが効果的だったんじゃないか」というシーンをアニメに入れ込めないかと提案されていました。
よく諫山さんは「音楽で言えば原作はライブの即興演奏で、アニメはその曲をCD用にレコーディングしたもの」と言っているんですが、まさにそういった形で、粗をなくしたり、「こうしたらもっと面白くなるんじゃないか」というアイデアを盛り込んで、原作をよりよい形にできるようにブラッシュアップしています。
──お話を聞いていると1期と同様に、「Season2」にもアニメオリジナルのシーンが多く盛り込まれるのかな、という印象を受けます。
ええ。
楽しみにしていてください。
ミカサとアルミンが一緒に夜戦食料を食べるシーンはアニメの影響です
──諫山先生は「原作はライブ、アニメはCD」と例えていたということですが、川窪さんはアニメをどのように捉えているのでしょう。
包み隠さずに言ってしまうと、ひとつは原作の宣伝だと考えています(笑)。
ただ、もちろんそれだけではなくて。
原作の「進撃の巨人」は諫山さん、僕、もう1人の担当編集の3人が携わっているんですが、アニメは製作委員会のメンバーだけで20人、30人、監督をはじめスタッフを入れたら200人以上?の力を結集させているので、3人で作っているより圧倒的なパワーのものが出来上がるんです。
黙っていても皆さんがすごい作品に仕上げてきてくれるので、客観的に楽しんでいるという部分もありますね。
──1期の制作が決まったとき、諫山先生はなんとおっしゃっていましたか?
あえて自分に「調子に乗らないように」と言い聞かせているからだと思うんですが、彼は自己評価が低いので「自分の作品でいいんですかねえ」と言っていた気がします。
PVが公開された時点ですごく話題になっていたし、もちろんアニメ化はうれしかったでしょうけど、傍から見ていると1話がオンエアされるくらいまでは、自分の作品がアニメになるということについて、ピンときていないのかなと感じましたね。
──なるほど。1期はかなりの反響を持って迎えられ、劇場版も公開されました。アニメ「進撃の巨人」の魅力はどういった部分だと思いますか。
やっぱり爽快感じゃないでしょうか。
1巻か2巻が出た頃に、当時の週刊少年マガジンの編集長にも「『進撃の巨人』のいいところは爽快感とか、疾走感だからそれを失わないようにね」と言われていたんです。
マンガを読むときってペースを作るのは読者ですけど、アニメは作り手がペースを握ることができるので、より爽快感を与えやすいと思うんですよね。
1期のPVでエレンが立体機動装置を駆使しているところもそうですが、「Season2」のPVで立体機動を使ったシーンを観ても、やっぱり疾走感を感じました。
アニメ「進撃の巨人」がいよいよ帰ってきたなとワクワクしています。
──「Season2」では総監督を務める荒木さんも、舞台挨拶で「僕の仕事は立体機動を気持ちよく見せることだけだ」とおっしゃっていました。(参考:諫山創「エルヴィンの話ができてきた」劇場アニメ「進撃」舞台挨拶で)
荒木監督はアニメ業界の超有名人だと思うんですが、あれだけ原作をリスペクトしてくれているのは本当にすごいですね。
「諫山創が何を考えているのか」とか「『進撃の巨人』らしさってなんだ」ということを理解したうえで、自分のやりたいものを作るという意図が感じられますし。
──「Season2」で描かれるエピソードは、ちょうど1期制作・放送時に別冊少年マガジンで連載されていた部分ですよね。アニメに影響を受けて原作にフィードバックされた部分はあるんでしょうか。
11巻でミカサとアルミンが一緒に野戦食料を食べるシーンは、まさにそうですね。
このシーンで表現されているのって、エレン、ミカサ、アルミンの関係性で、それは物語の序盤で描いていることでもあるんですよ。
それを原点に立ち返って、再度表現しているんです。
──エレンこそその場にはいませんでしたが、ミカサとアルミンがエレンへの思いを語りつつ、3人をよく知るハンネスが彼らの幼い頃を振り返っていましたね。
諫山さんは1期のアニメを観て「そういえばエレン、ミカサ、アルミンの関係性について、自分の中で意識することが少なくなっていたな」と思ったらしくて。
だから今一度「『進撃の巨人』はこの3人の物語なんだ」っていう軸の部分を強くするために描かなければいけないシーンだったと言っていました。
諫山さんが声優の方々に自分の口で説明した
──先ほど諫山先生がこだわっていた箇所として、「ある巨人の正体が明らかになるシーン」のお話がありましたが、その部分は原作でもかなり反響を集めましたよね。原作の演出はかなり特殊でしたが、もともとああいった形で描こうと考えていたんですか?
「どうやってネタバラシをしようか」っていうのはずっと考えていたんです。
ネームの段階から諫山さんもかなり苦戦していて、最初にあがってきたものは中途半端というか、正直あまり面白くなかったんですよ。
女型の巨人の正体がアニだったというのを明らかにしたときは、サスペンスっぽく「来るぞ、来るぞ」とかなり重厚な演出にしたんですが、諫山さんの中でそれと同じにしたくないというのがあって。彼が悩んだ末に思いついたのが、あの演出だったんです。
──それがアニメではどのように表現されるのか、すごく楽しみです。
これはね、本当にすごいですよ! 諫山さん自身も「観たことのないシーンにしたい」とずっと言っていて、「その回のアフレコはぜひ行きたい」と見学に伺ったんです。
最初はオーソドックスというか原作通りにやってもらっていたんですが、諫山さんとしてはちょっと違うという思いがあったみたいで、「このシーンの意図はこうです」「こういう心理になってほしいんです」と声優の方々に自分の口で説明をして。
諫山さんの意図が声優陣に伝わったら、見違えて面白くなりましたね。
言葉にするのは難しいんですけど、普通ではないのは確かですね。
かまってちゃんのエンディングは諫山さんへのご褒美
──「Season2」ではエンディングテーマを神聖かまってちゃんが手がけますよね。正直「進撃の巨人」と神聖かまってちゃんの組み合わせから、どういったものが出来上がるのかまったく予想できないのですが……(※取材は3月中旬に行われた)。
諫山さんは以前から「テーマ曲をかまってちゃんにやってほしい」とずっと言っていて。
これは正直、諫山さんへのご褒美だと思っています。
本当なら彼はあと20個だって何か注文を付けてもいいくらいの作家なんですけど、そういう素振りは見せないんですよ。
だからスタッフの方々が進んでお願いを聞いてくれたってことは、ありがたいなと思っています。
「本当にイメージに合うのか」って思われるかもしれないですが、すごくマッチしていますよ。
──確かにそれぞれの根底にある“世の中へのカウンター”というか、世界観は似通っている部分があるのかなとも感じます。
そうそう。諫山さんはの子さんを筆頭に、かまってちゃんの精神に共感しているわけで、実は合うというのは当然というか。
エンディングの映像には「進撃」らしさもありますし、楽曲単体で切り出してもすごくいい曲だと思います。
──オープニングテーマは1期から引き続き、Linked Horizonですね。Revoさんはもともと「進撃の巨人」のファンだったと伺っています。
別マガを創刊号から買って読んでくれているみたいで、もう最古参のファンですよね。
打ち合わせや打ち上げの場で、Revoさんと諫山さんがお話しすることもあり、「進撃の巨人」を理解したうえで楽曲を作っていらっしゃるんで、それはいいものが出来上がるよなって。
原稿を見たとき、「マンガを描きたくてたまらないんだろうな」と思った
──原作のこれまでについても伺わせてください。アニメ1期のBlu-ray / DVD1巻に付属した「進撃の巨人」0巻には諫山先生が持ち込んだ、読み切り版「進撃の巨人」が収録されています。この読み切りを最初に読んだのが川窪さんなんですよね?
ええ。
ちょうど10年くらい前になるのかな。
──その時点では原稿のどういった部分に光るものを感じたんでしょう。
うーん……。
主人公の表情を見たときに作家の気持ちが伝わってきて、「ああ、この人は本当にマンガが描きたくてたまらないんだ。表現したいことがあるんだな」と感じたんです。
僕は、マンガを描くということは結局、自己を表現することだと思うんですよね。
自分の中にある気持ちや考えを、「なんだよくかわからないけど外に出したい」と思ったときにすごい物語が出てくるんじゃないかと。
だからどのくらいマンガとして完成しているかっていうことは大した問題じゃなくて。
彼の中にそういう気持ちが強くあるっていうのが伝わってきたんです。
──ちょっと野暮な質問かもしれませんが、そのとき諫山先生が外に出したかった思いというのは、具体的にはどういうものだったんでしょうか。
その時点では僕もわからなかったですよ。
それを時間をかけて作家の中から吸い出して、明確にしていくお手伝いをするのが編集者の仕事だと僕は思っています。
──そこから別マガでの「進撃の巨人」連載までにはどういった経緯が?
別マガ創刊にあたって連載用のネームを作ることになって、プロットを2、3個出してもらったんです。
どれも面白くはあったんですけど、僕としてはもう1歩ピンとこなくて。
読み切りの「進撃の巨人」が印象に残っていたので、「あの作品で連載になるような裏設定とか考えてないの」と聞いたらいろいろな設定が出てきて。
それがすごく面白かったので「連載案にしてみませんか」と出してきてもらったのが最初ですね。
──そして連載が始まりアニメ化を経て、昔と今とでは打ち合わせにも違いは出てきたりしますか?
僕からしたら、今のほうが楽といえば楽ですね。
昔は僕も若かったということもあり、マンガの作り方……と言ってしまうとオーバーですけど「45ページで1話分の話を作るというのはどういうことか」「180ページで単行本を1冊作るというのはどういうことか」ということを、2人で手探りで学んできたので。
今の諫山さんは1話の構成みたいなところは型を掴んで、いわゆる全ボツはなくなりました。
もちろん諫山さんには物語を生み出す苦しさが変わらずあると思いますが。
「僕が非リア充じゃなかったら、誰が非リア充なんですか!」
──10年間、諫山先生を一貫して担当し続けてきた中で、印象に残っているエピソードはありますか?
諫山さんは常々「自分は非リア充だ」と言っていて。
非リア充であることを自分のアイデンティティにしているんだと僕は思っているんです。
ただ彼、普通に友達もたくさんいるんですよね。
電話していると「友達が遊びに来たんで、オートロックだけ開けてきていいですか」とか「この前、結婚式で大分に帰省していました」って言うし。
だから一緒に焼肉を食べているときに率直に「諫山さん、いつも自分を非リア充だって言うけど、マンガで成功してるし友達もたくさんいるし、リア充じゃないの?」って聞いてみたんです。
そうしたら結構大きな声で「僕が非リア充じゃなかったら、誰が非リア充なんですか!」って怒ったんですよね。
──あはは(笑)。
「馬鹿にするな!」くらいの勢いで。
それはすごく印象に残っていますね。
あとさっきも話に出ましたけど、彼は自己評価が低いというかすごく謙虚で。
徹夜の作業が続いたあとに深夜2時、3時まで打ち合わせする日があるんですけど、最後にいつも深々と頭を下げて「遅くまで付き合ってくれてありがとうございました」と言って帰っていくんですよ。
それを見てると、「とんでもない大人物だな」と思いますね。
──「進撃の巨人」は1巻発売時から表紙デザインが出来上がるまでの変遷をYouTubeで公開していたり、最近では関西弁版や「旅するコミック」、ファンサイト「みん撃」などさまざまな施策を行っていますが、川窪さんは話作り以外にも、作品のプロモーションも編集者の仕事として重要視しているんですか?
そうですね、今ってライバルが多すぎて「書店に置いておけば面白い順に売れていく」という時代でもないので。
僕はマンガを作ることに才能がないタイプの編集者だと思っているので、せめて売ることをがんばろうかなと。
──「旅するコミック」や「みん撃」がいい例ですが、「進撃の巨人」は読者を巻き込んで展開するコンテンツが多いですよね。
諫山さんも僕も「進撃の巨人」はみんなが育ててくれた作品だと思ってるんです。
1巻が出たときにブログで「とんでもないマンガが発売された」「これはすごいことになる」といろんな人が推してくれたり、書店の店頭でも「今日は◯◯冊売れました」とディスプレイしてくれたり、口コミで広がっていった。
今後も「進撃の巨人」はみんなの力を借りていきたいと思っているので、「進撃の巨人」をみんなと一緒に宣伝できる状況をいかに作るかというのが僕の課題です。
「みん撃」は楽しみながら宣伝をして、輪を広げていこうというのがコンセプトですね。
諫山さんは「進撃の巨人」を早く終わらせたがっている
──最後にひとつ、読者が気になっているんじゃないかと思うことをお聞きしたいのですが、川窪さんは2014年ごろにWebインタビューで「『進撃の巨人』はあと3~4年で終わります」とおっしゃっていましたね。諫山さんご自身も、同時期にダ・ヴィンチのインタビューで「あと3年ぐらいで終わらせたい」と発言していましたが、今年か来年には完結を迎えるということなんでしょうか。
ああ、それですね。
僕は引き伸ばしはお願いしていないし、諫山さんがわざと巻数を増やしているということは一切なんですが、ラストまでの道のりが伸びてしまっているんですよ。
ファンを騙すようなことになっちゃったことだけが一番つらいですし、本当に申し訳ないんですけど。
──描きたいことが増えたと。
それもありますし、「1話でできる」と思っていたことが2話かかってしまったりということが続いたりもして。
もちろん諫山さんの中にも適当に終わらせられないという気持ちがありますし。
──ちなみに富士登山で言えば、今何合目くらいでしょう?
それを言っちゃうと、また嘘になっちゃうかもしれないですからね(笑)。
でも諫山さんは「早く終わらせたい」と打ち合わせのたびに言っていますし、僕もそれを全力で応援しています。
──このインタビューの公開日に発売される22巻では、原作も大きなターニングポイントを迎えますよね。
そうですね。
22巻である種の到達点にたどり着きますので、アニメと一緒に楽しんでいただけると。
「Season2」は本当に全話がクライマックスというくらいに面白いですから!
https://natalie.mu/comic/pp/shingeki_anime02
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